『新建設業を考える』をテーマとして考え続けます。
2009年

5.1 資産管理

  (1)一般的な資産管理
資産運用や資産管理とは,資産を減らさないために,図5-1にあるように効率よく資金を導入するなどして確保する.

資産

        図5-1 資産運用図

事前審査をあらかじめ行い,企画,計画を立案する.市場調査や金融調査を常に行い自己資金や外部資金を流用してもとの資産を増加させる.市場は,時間とともに必ず変化し,そのつど資産の運用が有効に行われているかを確認する必要がある.

 (2)行政における資産管理
 社会資本のアセットマネジメントの定義として,社会資本と行政経営(著書:那須清吾教授)によるアセットマネジメントの各国の定義の表を参考にする.

      表5-1 アセットマネジメントの各国の定義資産運用

公共のアセット

 行政におけるアセットマネジメントの定義を行う.社会資本を健全な状態で維持運営し,利用者に対するサービスを安定的に提供することを目的とする.定期点検などで健全性を確認するとともに,ライフサイクルコスト等を管理することにより,効率的効果的なマネジメントを行う.一般的な資産運用との違いは,資産運用には,リスクが生じ社会経済環境に大きく左右される部分があり,かならず,リスクを抱えた状態での投資が行われる.それに比べて行政におけるアセットマネジメントは,安定的なサービスを提供することを目的としている.

5.2 資産について

(1)企業会計上の資産
  資産の種類として下記の3つの資産がある.
① 流動資産:通常1年以内に現金化,費用化できる資産
② 固定資産:1年以上継続的に営業のように供する事を目的とする財産
③ 繰延資産:ある営業年度の特定の支出をその年度だけの費用としないで,貸借対照表上の資産の部に計上してその後数年度にわたって分割して償却することが認められている資産
流動資産には,現金,預金,金銭債権などがある.評価として,原価主義と低下主義がある.固定資産には,有形固定資産(土地,建物,機械,器具,運搬具など),無形資産(営業権,特許権,商標権,実用新案権,漁業権,借地権など),投資その他の資産(長期前払い費用,長期金銭債権,長期保有の株式,社債など)がある.固定資産の評価は,取得価額または製作価額をつけ,毎決算期に相当の減価償却をする原価主義である.減価償却とは,それぞれの資産について耐用年数と残存価額とを決定し,原価から残存価額を控除した額を耐用年数に応じて決算期に計画的・規則的に配分する.繰延資産には,開業費や商品の開発費などが含まれる.将来の期間に影響する特定の費用で,次期以降の期間に配分して処理する.

(2)地方自治体の資産
 地方自治体において地方分権化を行うに当たって地方自治体の持っている資産の運用は,重要な問題となってくる.地方の財源の問題の対象として固定資産にあたる取り扱いを有効にまた効率的に運用する必要がある.有形固定資産と無形固定資産に分けると表5-2のような内容となる.

         表5-2 行政の資産

行政の資産

土木学会などのアセットマネジメントは,有形資産のみを対象としている.しかし,地方自治体の資産は,表5-2 行政の資産のように地方独自のさまざまな資産を効率的に運用し,地方の財政難に対する問題の解決のためにマネジメントする必要がある.

5.3 減価償却
(1) 企業における減価償却の方法
企業の会計上には,定額法と定率法がある.定額法は,所得価額から残存価額(原則として所得価額の10%を控除した金額にその償却費が毎年均等になるように,その耐用年数に応じた償却率を乗じて計算した金額を各事業年度の償却限度とする方法である.定率法は,取得価額にその償却費が毎年一定の割合で逓減するように,その耐用年数に応じた償却率を乗じて計算した金額を各事業年度の償却限度額とする方法である.

資産価値と耐用年数

     図 5-2 減価償却の償却残額(耐用年数10年の場合)

      表 5-3 各国の減価償却方法の概要

各国の減価償却年数online casinos />

 表5-3 の各国の減価償却方法の概要からもわかるようにわが国の償却可能限度額は95%までである.
企業の場合,機械を購入してもすぐに利益を生む資産でないために,投資した金額の全てを資産としてみなされない.企業における減価償却は,図5-3のように当初設備投資として1,000万円の価格の機械を購入した場合,仮に耐用年数を6年として定額法による減価償却を考えてみる.毎年150万円の金額が経費処理できる.これは,企業にとっての利益に置き換えられる.図5-4 のようになる.

定額法による減価償却
      図 5-3 定額法による機械の減価償却(耐用年数6年の場合)

定額法による減価償却積立
      図 5-4 機械の減価償却費用(耐用年数6年の場合)

 図5-5機械の減価償却累計金額のように減価償却累計金額は,6年後で900万円,8年後で950万円となる.企業にとっては,当初年の1,000万円の投資金額によって購入された機械が償却年数の7年後にようやく950万円となる.仮に10年後に,廃棄したとすれば,資産として残りの50万円が償却される.

       減価償却累計

       図 5-55 機械の減価償却累計金額

そこで,3年後に150万円の修繕費の投資を行い,全てが資産価値の増加と考えるならば最終の耐用年数の8年が図5-6修繕費の投入と耐用年数のように9年となり耐用年数が延長されたこととなる.

耐用年数の延長

     図 5-6 修繕費の投入と耐用年数

(2)行政おける減価償却
企業会計は,固定資産の場合,利益の発生が将来的にあるものとして建物などの固定資産は,会計上,減価償却が行われる.しかし,行政には,企業会計のように法人税に対する処理のための減価償却の考えがない.そのために,行政の場合,事業完成の翌年の会計には,帳簿上に記載されることはない.表5-4 一般会計歳入歳出決算書(X自治体)において特定する資産に対しての項目がない.住宅に関しても公営住宅自身の維持修繕費の項目もない.それに比べ,企業会計は,減価償却として帳簿に,会計上の記録として残る.

     表 5-4 一般会計歳入歳出決算書(X自治体)

行政の決算書

仮に,行政の場合,公共サービスで行われる事業がすべて住民のためになる=利益となると考えれば,たとえば公共事業で作られた建物は,作った段階で100%住民にとって利益を生むこととなる.企業会計のように利益の発生時点では,図5-7 行政の減価償却と年数のように,100%で減価償却されたこととなる.そのことによって耐用年数は,永久的なものとなる.

行政の原価償却

      図 5-7 行政の減価償却

実際には,建物の維持費や修繕費がかかる.しかし,行政の会計は,ある特定の資産に対しての管理費や修繕費として追加の資金の投資をおこなわない.そのために,別事業費の予算を組んでその費用にあてている.

行政の資産管理

      図 5-8 行政における資産管理

5.1で行政におけるアセットマネジメントの定義をおこなった.社会資本を健全な状態で維持運営し,利用者に対するサービスを安定的に提供することを目的とし,定期点検などで健全性を確認し,ライフサイクルコスト等を管理する.この定義の,マネジメントを行っている範囲は,図5-8 行政における資産管理 の別事業の部分を対象にしたマネジメントにあたる.
仮に,20年後,資産の機能が全く無くなったとすれば,図5-9 行政における資産管理のように21年目に新たな投資が必要になる.

行政の資産管理2

       図 5-8 行政における資産管理

現在の地方自治体の公共事業の元の資金は,国の補助によるものが55%を占めていて残りの45%に対してもその30%が助成金として国から地方自治体に支払われている.全体の約85%が国の資金による投資である.三位一体改革によってこの国の資金が限定される.これからの地方の財政は,15%の部分での投資となり,元の資産を確保するための新規投資は,不可能となるであろうと予測される.また,インフラ整備を維持するための管理費や修繕費のために別事業費を組む事すらできない状況にもなる.地方自治体にとって重要な問題となる.別事業費の部分に関してのアセットマネジメントを行うことは,当然重要なことであるが,資産全体の考えに基づいて,資産の取り扱いに耐用年数を設定することや,企業会計のように減価償却の考えを導入して,資産を継続して運用できるアセットマネジメントを行う必要がある.そして,インフラ整備に関して耐用年数を設定することは,建設の信頼性の技術の向上にも繋がることといえる.

5.4 青森県の橋梁アセットマネジメント
 
(1)システムの概要
 県民の安全安心な生活を確保するために,健全な道路のネットワークを維持するのを目標とし,インフラ整備された構造物の大量更新時代に対応する.特に既設の橋梁に関しての維持管理を目的としたアセットマネジメントシステムである.元来,維持管理は,「傷んでから直すまたは,作り直す」という対症療法てきなものであった.「傷む前に直して,できる限り長く使う」という予防保全的なものとし,維持更新コスト(ライフサイクルコスト)を最小化するためシステムである.ITの活用による点検コストの削減や日常管理に効果的な維持管理を行う.
 (2)問題点 
社会環境への対応として,地方自治体の財源との問題がある.また,少子高齢化によってマネジメントできる人材の確保 が可能か,指定管理者制度の利用や特定非営利活動を検討する必要がある.そして,リスク管理の導入が重要になってくる.予算リスク,社会経済状況の変化,維持管理運営コストのリスク,劣化のリスクなどがある.